アリ飼育において大切な要素のひとつ「湿度」。
これまでも土や石膏をはじめとして様々な保水材、保湿方法で観察用のアリの巣は作られてきました。
しかし、どの種も同一に加湿環境を整えればいいというわけではありません。
なぜなら国内外問わずアリの種類ごとに住む環境が異なり、それゆえに好む環境も変わるからです。
本記事では、アリ飼育における「巣内湿度」をこれまでより深堀りし、今後の蟻飼育&飼育用品製作を考える時の知識のひとつとしたいと思います。
本記事は数パートに渡って執筆予定です。
記事のシリーズ完成は数か月~1年程度あとになる可能性があり、現時点で出している予測や考えは今後の観察で変わるかもしれません。
まずはエンタメとしてご覧いただければ幸いです!
長々と読みたくない人への「超ざっくり」まとめ
- 土中性の蟻でも好む湿度(耐えられる乾燥程度)は違いそうだよ
- アリの巣内の湿度を20日測ったら思った以上に湿度高かったよ
- 販売&飼育サイトに書いてある「推奨湿度」って怪しいかもよ
- 現行のリンクスは低~中程度の加湿能力のアリの巣だよ
- 次は「リンクス」の高湿度化テストをするよ
記事がとっても長くなったから、全部読みたくない人向けへの概要ですっ!!
詳しくは下を読んでいってね!
【前提知識】アリの好む環境は、種類によってちがう
国内におけるアリの飼育情報はまだまだ少なく、数年前まで国内のアリ飼育は「飼育容器は石膏巣にして、加水した飼育一択」という時代が長く続いていました。
しかし、それですべての種類のアリを健康的に飼育するのは、とても難しいとわたしは考えています。
これまでの観察から土中、朽木、林床などの湿った環境に棲むアリは加湿された環境を好みます。
対して、樹上性や海外の乾燥地帯に棲むアリは巣内の過ぎた湿度を嫌います。
これらの元の住んでいる環境や好みがわからない種類を飼育するにあたっては、下記の比較実験での湿度の見極めをわたしはしています。
上記の記事では「加湿」と「乾燥」という大まかな2パターンのみを記事で書きました。
本記事では、加湿の中でも「どの程度」かといったところに少し踏み込んで考えていきたいと思います。
本記事での観測結果から推奨する飼育方法が国内外問わず他のサイト、販売店表記と食い違うことがあると思います。ですが、他サイトの飼育についての考え方を一概に否定するものではありません。
蟻飼育技術はまだまだ確立しておらず、発展途上の趣味です。
皆で楽しく、より良い飼育環境作りをしましょう!
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アリの巣内湿度を考えるきっかけ
ねぇねぇ、ありぐらちゃん!!
なんでこれまでの
「土中種⇒加湿飼育」と「樹上種⇒乾燥飼育」みたいな括りだけじゃなく、アリの巣内湿度を細かく測る気になったの?
これまでと給水方法の考え方が異なる新タイプのアリの巣「リンクス」を1か月ほど前に開発・販売したんだ。
だけどプレゼント企画で配布した中で、乾燥によって飼育が上手くいかなかった土中種が何種類かいたんだよ。
えっ!?
それは、土中種で飼育テストもせずに販売に踏み切ったってことっ!?
いやいや、日本で一番飼育者が多いであろう土中営巣の代表種のクロオオアリをパイロットアンツにしてテストしたし、数か月経った今もリンクスで変わらずにクロオオアリのコロニーを飼育してるよ!
んんっ!?
じゃあ、同じ土中種でもリンクスで「クロオオアリは飼えるけど、飼えない種類もいた」ってこと?
そういうことになるね。
だから、その理由を深堀りするために巣内湿度の調査をするんだよー!
なるほどっ!!
巣内の湿度ってちゃんと測っているの見たことないから、どんな結果になるか楽しみだねっ!!
ということで、ここからはリンクスを中心に巣内湿度を測定してアリ飼育時の湿度についての考えをまとめていきたいと思います。
リンクスについての詳細は下記にありますのでご覧ください。
リンクスで飼育できる種類とできない種類
下記は、リンクスを使った国内種の飼育可否実績の一部です。
これを見ると確かに土中性の中でもリンクスに適応できる種類とできない種類がいるんだねっ!!
そうなんだ、基本は「樹上性<朽木性<土中性といった感じで湿度を好む」って認識なんだ。
ただリンクスの開発・販売から「樹上性<朽木性<土中性(乾燥耐性あり)<土中性(乾燥耐性なし)」ってまずは仮定して考えていきたいね。
そうなんだーっ!
リンクスの飼育可否表の種類だけで言うと、ヤマアリとオオアリの仲間は乾燥耐性あるのかもしれないね!
ヤマアリの仲間なんかは石膏巣に加湿直後の濡れた感じを嫌う様子あるから可能性はあるよね。
【実測】アリの巣内の湿度を測定する
ここからはアリの巣内の湿度を実際に測定していきます。
測定条件&環境
- 外部との通気箇所は通常使用を考慮して、外径10mmチューブを挿しこむ一ヶ所。その他のフタの隙間などは、特別気密性を上げることはしない。
- 測定開始日に満水まで給水を行う。日々の追加給水はせずに経過観察を行う。
- 巣内給水後、24H 経過し、巣内湿度が平衡状態になってから測定を開始。
- 測定期間:2023/1/22~2/10の20日間(一番寒く、乾燥する時期)
- 飼育部屋の雰囲気、リンクス(給水タンクダブルで加湿)、リンクス(給水タンクシングルで加湿)、天然石入り平型石膏巣、タワー型3Dプリンター巣の巣内湿度を測定
※天然石入り平型石膏巣とタワー型3Dプリンター巣はオオズアリ、アシナガアリ等のリンクスを使って飼育できなかった種類について複数の飼育実績あり。 - 飼育部屋の温度も参考として記録
この条件で巣内湿度を測定したデータが下記です。
20日間連続で飼育部屋でのデータを取りました。
※わたしの部屋は暖房を入れていないのですが、3Dプリンター複数台が常時稼働していますので、冬場も不安定ながら室温が高めです。(大きく上下している赤線グラフ、右目盛り)
20日間の測定まとめ
- リンクスの加湿能力について、給水タンク「ダブル」使用で雰囲気湿度+30%(64~71%)程度。
- リンクスの加湿能力について、給水タンク「シングル」使用で雰囲気湿度+20%(48~60%)程度。
- リンクスは一気に水切れを起こして乾燥するのでなく、徐々に巣内湿度が下がっていく。
- 平型石膏巣とタワー型3Dプリンター巣は20日間、一度も追加給水することなく、巣内湿度が99%(湿度計の表示最大値)を維持している。
- 飼育部屋の湿度とリンクスの湿度は、連動する傾向が強い。
- 石膏巣とタワー型の湿度は常時飽和しており、飼育部屋湿度の影響はない。
- 飼育部屋の温度変化(5℃程度)は各アリの巣内湿度に影響を与えていないように見える。
リンクスの給水タンクは、二つあって、ダブルで使う方が湿度が上がるよっ!!!
20日の間、巣内湿度を測定してみて、意外だったのは水分の蒸発に大きな影響を与える「室温」が数℃程度なら影響なさそうってこと。
実は巣内の温度も全部記録していたんだけど、室温とすべて連動していて違いがなく、グラフが煩雑になるから出すのやめたのですっ!!
石膏巣とタワー型(二層式3Dプリンター巣も同様の作り)の巣内は、常に飽和水蒸気量を抱えた空気を蓄えていたね。
こういった種類は「温度変化で結露しやすい」と体感していたのも納得だよねぇーっ!!
アリ飼育の推奨湿度?
海外のサイトを中心にアリ飼育情報の中で「推奨湿度〇〇~〇〇%」といった表記をしばしば見ます。
果たしてそれはしっかりと考えられた表記で正しいものなのでしょうか?
というのも、アリの巣を日々作るわたし自身がこれまで巣内湿度の測定や推移の観測を細かくせずに作ってこなかったというのが一つ。
また、アリの種類については推奨湿度なるものが表記されているのに対し、肝心の巣内湿度を決めるであろうアリの巣の販売情報の側に「給水時:雰囲気湿度30%の時に80%」といった「巣内の加湿能力」に対する性能表記を見たことがないからです。
つまり、飼育用品の側から見て従来のアリの巣を使うことを前提にすると、飼育情報に書かれている推奨湿度が正しくても正しくなくても、飼育者からして「巣内湿度をねらい値にコントロールするのは難しい」ということになります。
わたし自身がアリの巣を作って販売している中でそういった情報発信の仕方をしたことがなくて知らないだけで、他の一部の方はされているかもしれません。
なお、作り手・売り手の一人として、それが絶対の要求品質であるなら、現在の国内市場規模で徹底させるのは「非常に大きな労力が伴う割に効果は限定的」ということもあり得ると思います。
まずは実験的に今回の記事を作りながら考えています。
飼育&販売サイトに表記されている推奨湿度は不正確?
アリの巣側に続き、次は生体の表記側から「推奨湿度」について考えてみたいと思います。
わたしの見たとある海外サイトの一つには、
・クロオオアリ (リンクスで飼育可能)
・オオズアリ (リンクスで飼育不可)
この2種の飼育推奨湿度が共に【50~80%】と同一条件で表記されていました。
これを見てわたしが「この推奨湿度は不正確ではないか?」と、感じた理由は二つあります。
(どのサイトのどの表記であるかという細かい話より、多くのサイトが幅を持って書いていますがそれでも不正確ではないか?と疑問を抱いています。)
※推奨湿度が不正確 = その表記に基づいて巣内湿度を調整したとしても健康的にアリを飼育することができない可能性がある。
本記事ではわかりやすく巣内湿度のみが飼育可否を決めるように書いていきます。
しかし、注意事項としてそれは主要因のひとつで他の要因もあります。(例、飲水の有無など)
種類ごとのリンクスでの飼育可否は、観察結果から湿度(巣内の乾燥)だと現状で予想していますが、それ以外の要因の可能性もゼロではありません。
原因をもう少し追究していきますので、シリーズ完結までお付き合い頂ければと思います!
理由1
先のリンクスの湿度測定では(給水タンクをダブルで使用で)64~71%を20日に渡って維持しておりました。
海外サイトに表記されていた【50~80%】の推奨湿度内には入っており、そこからすると飼育不可の実績がある「オオズアリ」も飼育できるはずです。
しかし、乾燥と思われる要因でコロニーの調子を崩したのが現実です。
つまり、「オオズアリを飼育する上での巣内湿度下限は【65%】では足りない」という予測が立ちます。
理由2
リンクスと共に巣内湿度を測定した、天然石入り平型石膏巣、タワー型3Dプリンター巣は、ずっと99%(湿度計の表示最大値)を維持していました。
この2つの巣は、クロオオアリとオオズアリの飼育実績が何件もあります。
海外サイトに表記されていた【50~80%】の推奨湿度内からは上方向に大きく外れており、そこからすると湿度99%の環境ではクロオオアリ、オオズアリ両種ともに飼育不可となるはずです。
しかし、湿度が飽和した中でも飼育可能であるのというのが現実です。
つまり、「クロオオアリとオオズアリを飼育する上での巣内湿度上限は【80%】以上であり、99%で問題ない」という予測が立ちます。
海外は水槽でテラリウム風に飼育するのも主流の一つだから、湿度勾配が飼育環境下にあって、細かく考える必要がないってのもあるかもね。
あわせて巣内の湿度ピンポイントというよりは、飼育環境全体の平均で考えてるとかね。
推奨湿度の考察まとめ
飼育推奨湿度について
・リンクスで飼育可能な「クロオオアリ」
・リンクスで飼育不可の「オオズアリ」
この2種で考えてきたことをまとめます。
クロオオアリの飼育推奨湿度 ⇒ 65%以下~100%
巣内湿度の下限「65%以下」
(リンクスで飼育可能のため。正確な下限値を測れていないが65%なら飼えるということ)
巣内湿度の上限「100%」
(湿度99%をずっと維持する天然石入り平型石膏巣、タワー型3Dプリンター巣での飼育実績が何度もあるため。)
オオズアリの飼育推奨湿度 ⇒ ??%~100%
巣内湿度の下限「不明だが65%では飼育不可」
(リンクスで飼育不可のため。正確な下限値を測れていないが65%では飼えないということ)
巣内湿度の上限「100%」
(湿度99%をずっと維持する天然石入り平型石膏巣、タワー型3Dプリンター巣での飼育実績が何度もあるため。)
まとめ
今回の記事では、わたしの作るアリの巣の「巣内の湿度」を測定しました。
その結果から低~中程度の加湿能力のリンクスを中心に考えると「種類による飼育推奨湿度(乾燥耐性)」はそれぞれ異なり、どうやら世の中に書かれている推奨湿度は不正確な可能性がある。と考えるようになりました。
次回は、リンクスの高湿度化の条件を探りつつ、アリの巣内湿度について再度掘り下げて行く予定です。
次回、「リンクスの高湿度化」を予定ですッ!!!!
リンクスの高湿度化によって、現行のリンクスで飼えない種類の飼育が可能になれば、湿度が要因だったってハッキリするから試していきます!