【2026年追記】
この記事は2023年当時の巣内湿度の測定記録です。
現在の考え方と、試験管セパレーターv2の測定、3種30コロニーの観察は『乾湿選好比較法』に掲載しています。
アリ飼育において大切な要素のひとつ「湿度」。
これまでも土や石膏をはじめとして様々な保水材、保湿方法で観察用のアリの巣は作られてきました。
しかし、どの種も同一に加湿環境を整えればいいというわけではありません。
なぜなら国内外問わずアリの種類ごとに住む環境が異なり、それゆえに好む環境も変わるからです。
本記事では、アリ飼育における「巣内湿度」をこれまでより深堀りし、今後の蟻飼育&飼育用品製作を考える時の知識のひとつとしたいと思います。

2023年当時の観察から、巣内湿度と巣づくりを考えていくよ。

ありぐら
アリ飼育用品店「あり巣 in underground」の製作担当。
アリ専用のエサや巣を日々考えてTwitterで発信している。
これまでに作った飼育用品は累計で1万個を超える。
世の中にまだない、自身が欲しいと思う巣や飼育用品を製作中。
長々と読みたくない人への「超ざっくり」まとめ
- 土中性の蟻でも好む湿度(耐えられる乾燥程度)は違いそうだよ
- アリの巣内の湿度を20日測ったら思った以上に湿度高かったよ
- 販売&飼育サイトに書いてある「推奨湿度」って怪しいかもよ
- 今回測定した2023年当時のリンクスは、比較した巣の中では低~中程度の加湿能力だったよ
- 次は「リンクス」の高湿度化テストをするよ

まずはこの概要を読んでね!
【前提知識】アリの好む環境は、種類によってちがう
国内におけるアリの飼育情報はまだまだ少なく、数年前まで国内のアリ飼育は「飼育容器は石膏巣にして、加水した飼育一択」という時代が長く続いていました。
しかし、それですべての種類のアリを健康的に飼育するのは、とても難しいとわたしは考えています。
これまでの観察から土中、朽木、林床などの湿った環境に棲むアリは加湿された環境を好みます。
対して、樹上性や海外の乾燥地帯に棲むアリは巣内の過ぎた湿度を嫌います。
これらの元の住んでいる環境や好みがわからない種類を飼育するにあたっては、下記の比較実験での湿度の見極めをわたしはしています。

今回は「どの程度の加湿が必要か」を考えていくよ。
この記事では、わたしの測定・飼育経験と、そこから考えたことを紹介します。
蟻飼育技術はまだまだ確立しておらず、発展途上の趣味です。
皆で楽しく、より良い飼育環境作りをしましょう!
アリの巣内湿度を考えるきっかけ

ねぇ、ありぐらちゃん、巣内湿度を測ろうと思ったきっかけは何?

新しい給水方法の「リンクス」を開発・販売したら、乾燥で飼育がうまくいかない土中種がいたんだ。


開発中の飼育テストは、どの種類で行ったの?

土中営巣のクロオオアリでテストして、数か月経った今もコロニーを飼育しているよ。

同じ土中種でも、飼える種類と飼えない種類がいたんだね!

その違いを調べるために、巣内湿度を測るんだよ。

どんな結果になるか楽しみだねっ!
ということで、ここからはリンクスを中心に巣内湿度を測定してアリ飼育時の湿度についての考えをまとめていきたいと思います。
リンクスについての詳細は下記にありますのでご覧ください。
リンクスで飼育できる種類とできない種類
下記は、リンクスを使った国内種の飼育可否実績の一部です。


まずはリンクスでの飼育実績を見てみよう。

同じ土中性でも、乾燥への強さが違いそうだね!

土中性の中にも、乾燥に強い種類と弱い種類がいると考えているよ。
これまでの「樹上性<朽木性<土中性」という認識を、リンクスの飼育実績から「樹上性<朽木性<土中性(乾燥耐性あり)<土中性(乾燥耐性なし)」と分けて考えています。

この表では、ヤマアリやオオアリの仲間が乾燥に強そうだね!

ヤマアリの仲間は、加水直後の石膏巣の濡れた感じを嫌う様子もあるんだ。
【実測】アリの巣内の湿度を測定する
ここからはアリの巣内の湿度を実際に測定していきます。
測定条件&環境
- 外部との通気箇所は通常使用を考慮して、外径10mmチューブを挿しこむ一ヶ所。
その他のフタの隙間などは、特別気密性を上げることはしない。 - 測定開始日に満水まで給水を行う。
日々の追加給水はせずに経過観察を行う。 - 巣内給水後、24H 経過し、巣内湿度が平衡状態になってから測定を開始。
- 測定期間:2023/1/22~2/10の20日間(一番寒く、乾燥する時期)
- 飼育部屋の雰囲気、リンクス(給水タンクダブルで加湿)、リンクス(給水タンクシングルで加湿)、天然石入り平型石膏巣、タワー型3Dプリンター巣の巣内湿度を測定
※天然石入り平型石膏巣とタワー型3Dプリンター巣はオオズアリ、アシナガアリ等のリンクスを使って飼育できなかった種類について複数の飼育実績あり。 - 飼育部屋の温度も参考として記録
現在の用品の取り扱い・仕様は、次の案内をご覧ください。
掲載例と現行品では、形状・寸法・接続規格が異なる場合があります。


どんな条件で測ったの?

この条件で、飼育部屋と巣内のデータを20日間記録したよ。
暖房は使っていませんが、複数の3Dプリンターが常時稼働しているため、冬でも室温は高めです。
赤線の室温は右目盛りで示しています。

20日間の測定まとめ
- リンクスの加湿能力について、給水タンク「ダブル」使用で雰囲気湿度+30%(64~71%)程度。
- リンクスの加湿能力について、給水タンク「シングル」使用で雰囲気湿度+20%(48~60%)程度。
- リンクスは一気に水切れを起こして乾燥するのでなく、徐々に巣内湿度が下がっていく。
- 平型石膏巣とタワー型3Dプリンター巣は20日間、一度も追加給水することなく、巣内湿度が99%(湿度計の表示最大値)を維持している。
- 飼育部屋の湿度とリンクスの湿度は、連動する傾向が強い。
- 石膏巣とタワー型の湿度は常時飽和しており、飼育部屋湿度の影響はない。
- 飼育部屋の温度変化(5℃程度)は各アリの巣内湿度に影響を与えていないように見える。

給水タンクを二つ使うと、湿度が上がるんだねっ!

今回の測定では、室温が数℃変わっても巣内湿度への影響は小さそうだったよ。

巣内の温度も記録していたの?

全部記録したけれど室温と連動していたので、グラフでは省略したんだ。
石膏巣とタワー型(二層式3Dプリンター巣も同様の構造)は、常に飽和した空気を蓄えていました。

石膏巣やタワー型が結露しやすいと感じていたのも納得だねっ!
アリ飼育の推奨湿度?
海外のサイトを中心にアリ飼育情報の中で「推奨湿度〇〇~〇〇%」といった表記をしばしば見ます。
果たしてそれはしっかりと考えられた表記で正しいものなのでしょうか?
巣を作るわたし自身も、これまでは巣内湿度の変化を細かく測らずに製作していました。
一方、巣の販売情報では「室内湿度30%のとき、給水後の巣内は80%」といった加湿能力の表記を、わたしは見たことがありませんでした。
種類ごとの推奨湿度があっても、使う巣の加湿能力が分からなければ、巣内湿度を狙った値に調整するのは難しいと考えました。

まずは自分の巣を測って、飼育と製作に役立てたいんだ。
飼育&販売サイトに表記されている推奨湿度は不正確?
アリの巣側に続き、次は生体の表記側から「推奨湿度」について考えてみたいと思います。
わたしの見たとある海外サイトの一つには、
・クロオオアリ (リンクスで飼育可能)
・オオズアリ (リンクスで飼育不可)
この2種の飼育推奨湿度が共に【50~80%】と同一条件で表記されていました。
これを見てわたしが「この推奨湿度は不正確ではないか?」と、感じた理由は二つあります。
(どのサイトのどの表記であるかという細かい話より、多くのサイトが幅を持って書いていますがそれでも不正確ではないか?と疑問を抱いています。
)
※推奨湿度が不正確 = その表記に基づいて巣内湿度を調整したとしても健康的にアリを飼育することができない可能性がある。

同じ推奨湿度なのに、飼育結果が違ったのはどうしてだと思う?

これまでの経験と観察から、種類ごとの飼育結果の違いは巣内の乾燥が原因だと予想しているよ。
理由1
先のリンクスの湿度測定では(給水タンクをダブルで使用で)64~71%を20日に渡って維持しておりました。
64~71%は海外サイトの推奨湿度50~80%の範囲内ですが、リンクスではオオズアリが調子を崩しました。
この経験と観察から、わたしは「オオズアリを飼育するには、巣内湿度65%では足りない」と考えています。
理由2
リンクスと共に巣内湿度を測定した、天然石入り平型石膏巣、タワー型3Dプリンター巣は、ずっと99%(湿度計の表示最大値)を維持していました。
この2つの巣は、クロオオアリとオオズアリの飼育実績が何件もあります。
99%は海外サイトの推奨湿度50~80%を大きく上回りますが、両種ともこれらの巣で何度も飼育しています。
その経験から、わたしは「両種の巣内湿度の上限は80%以上あり、99%で問題ない」と考えています。

海外の飼育環境との違いもありそう?

テラリウムのように湿度勾配がある環境では、アリが居場所を選べることも関係していそうだね。
海外の推奨湿度は、巣内の一点ではなく、飼育環境全体の平均を示しているのかもしれません。
測定と飼育経験から考える湿度
クロオオアリ

リンクスでの飼育実績から、わたしは「65%なら飼育でき、下限は65%以下」と考えています。
表示湿度99%を保った石膏巣とタワー型3Dプリンター巣でも何度も飼育しており、上限は100%と考えています。
オオズアリ

リンクスでの飼育結果から、わたしは「65%では飼育できず、もっと高い湿度が必要」と考えています。
表示湿度99%を保った石膏巣とタワー型3Dプリンター巣では何度も飼育できており、上限は100%と考えています。
まとめ
今回の記事では、わたしの作るアリの巣の「巣内の湿度」を測定しました。
低~中程度の加湿能力のリンクスでの飼育経験と今回の測定から、種類によって必要な湿度と乾燥耐性は異なると考えています。
クロオオアリとオオズアリを同じ50~80%とする推奨湿度は、わたしの飼育実績と合わず、不正確ではないかと考えるようになりました。
次回は、リンクスの高湿度化の条件を探りつつ、アリの巣内湿度について再度掘り下げて行く予定です。

次は、リンクスの加湿を強めてみるんだね!

今のリンクスで飼えない種類が高湿度化で飼えるようになれば、湿度が要因だったとはっきりするから試すんだよ。
関連研究
この記事をまとめた後の2026年11月に、野外のアリの巣の水分を調べた研究を知りました。
MacKayは、南カリフォルニアに生息するPogonomyrmex属3種の巣について、深さや季節による土の水分の変化を調べています。








