アリに合う巣を作るとき、湿度を何%にすればよいのでしょうか。
あり巣 in undergroundが製品づくりで大切にしてきたのは、ひとつの数値だけを目標にするのではなく、アリ自身が好む場所を選べる環境を用意することです。
水分に近い場所と、より乾いた場所。
湿った巣と、通気のよい餌場。
同じ飼育設備の中に条件の違う場所を作り、アリがどこを使うかを観察します。
この考え方を、給水位置、仕切り、保水材、メッシュ、巣室の配置へ落とし込み、実際に作って測り、改良してきました。
本記事では、情報メディア「ありぐら」に残る公開記事と、あり巣 in undergroundの現行製品をたどり、そのつながりを紹介します。
アリ自身が選べる湿度勾配
湿度勾配とは、場所によって湿度に差がある状態です。
巣全体を均一に加湿する構造だけでなく、保水部に近い湿潤な場所から、通気口に近い乾燥した場所まで、移動して選べるようにする設計があります。
必要な加湿の程度は、アリの種類によって異なります。
同じ種類でも、室内環境や季節、コロニーの状態によって巣の使い方が変わることがあります。
そのため、飼育者が設定した数値だけで適否を決めず、アリや幼虫などが実際に使う場所も見ていきます。

湿度計の数字が合っていれば、それでいいわけじゃないの?

数字に加えて、アリが選べる場所と実際の居場所を見ていくことが大切なんだよ。

同じ巣の中にも、選択肢を用意するんだねっ!
なぜ、幅広い種類に使える巣を作りたかったのか
アリは種類によって好む環境が異なります。
種類ごとに専用の巣を一つずつ作り分けるには限界があるため、あり巣 in undergroundでは、より幅広い種類に使える汎用的な巣を作りたいと考えました。
私が測定した加水済みの平型石膏巣では、20日間、湿度計の表示上限である99%を維持しました。
高湿度を保つ強みがある一方、その構成のままでは、より乾いた場所を好む種類の選択肢を作りにくかったのです。
私は、土中性のアリが初心者向けと紹介されてきた背景には、加水した石膏巣との相性も大きかったと考えています。
実際に飼育すると、ミカドオオアリなどの樹上性の種類には、光や振動の変化に過敏に反応せず、思った以上に図太いと感じるものがいます。
地中とは異なり、樹上では温度差や振動などの変化がある環境で暮らしています。
その暮らし方と反応の違いには関係があるのではないか、と飼育観察から考えています。
だからこそ、従来の巣との相性だけで飼いやすさを決めるのではなく、乾湿の異なる場所を用意して、アリ自身が選べる構造を目指しました。
あり巣 in undergroundにおける湿度勾配設計の変遷

2021年|好む場所の観察と平型巣の構造
2021年3月30日公開の飼育環境を判別する記事では、条件の違う環境を用意し、アリが選ぶ場所から好みを探る方法を紹介しています。
現在の本文には、試験管内の湿度差と、アリ自身が居心地のよい場所を選ぶという説明があります。
同年9月4日公開の平型3Dプリンター巣の記事では、その考え方を巣の形にしています。
入口から見て奥に給水エリアを置き、巣内の複数の壁によって段階的に加湿される構造です。
小さな巣にも湿度差を作り、好みに合う場所を使えるようにする工夫が説明されています。
2022年|二層式の加湿性能と試験管内の選択
2022年6月18日公開の二層式3Dプリンター巣では、アリが生活する層と保水層を上下に分け、加湿性能を高めています。
一方で、中間的な湿度を好む種類に対しては、加湿の調整が難しいという課題も記載されています。
同年10月22日公開の試験管セパレーターの記事には、10月18日付の観察投稿が掲載されています。
ミカドオオアリとキイロシリアゲアリで使う部屋が異なり、保水部に近い場所ほど湿度が高くなる構造の中で、アリ自身が場所を選ぶ様子を紹介したものです。
2023年|実測による確認と二層式の改良
2023年2月11日公開の巣内湿度の測定記事では、複数の巣を20日間測定し、給水方式と湿度の推移を比較しています。
測定期間は同年1月22日から2月10日です。
追加給水の有無や通気条件、測定のための加工も記載されており、その条件下の結果として読む必要があります。
3月7日付の試験管セパレーターの投稿では、巣内の部屋ごとの湿度を実測しています。
入口側から奥へ湿度が高くなることを測り、設計で意図した差が実際にできているかを確認しています。
5月15日公開の改良型二層式3Dプリンター巣では、加湿用メッシュを一部に配置する構造へ進みます。
加湿する面を限ることで、巣内に湿度差を作る設計です。
加湿できることに加えて、乾いた場所も残せること。
この二つを両立させようとした経緯が、旧製品と改良型の記事から読み取れます。

加湿を強くできれば、それで完成じゃなかったの?

乾いた場所も選べるように、加湿する面の広さや位置も見直してきたんだよ。

水分を保つことと、選べる場所を残すことの両方なんだねっ!
2025年以降|構造を継承し、扱いやすさも改良
2025年の横置きリンクスv2では、二層式の加湿部を端へ寄せる構造や、タワーの下部保水と上部通気を組み合わせる設計が説明されています。
平面の巣だけでなく、多層の巣でもアリが場所を選べるようにしています。
同年7月には、試験管セパレーターがv2へ更新されました。
素材をPLAからPETGへ変更し、入口には自在継手シリーズと共用のネジ規格を採用しています。
湿度を作る構造を使い続けるために、耐久性や接続の扱いやすさも改良しています。
2026年の大型種レイアウトシリーズでは、交換できる巣材と、通気のよい餌場まで含めた環境の選択へと広がっています。
これらの現行製品の構造を、次に見ていきます。
なお、既存記事には公開後の追記・改稿があります。
記事の公開日は取り組みをたどる手掛かりとして示し、現在の全文が公開当時のまま残っているという意味では扱っていません。
現行製品に残る設計
試験管系|奥の保水部と生活空間の分離

試験管セパレーターv2は、奥の軽石を入れる保水エリア、3つの小部屋、床下の給排水路を分けた構造です。
試験管口側から水を入れ、生活する床面とは別の水路を使って給排水します。
保水部との位置関係によって、入口側と奥側に湿度差を作ります。

- 保水部と生活エリアを分ける
- 小部屋を通じて、アリが居場所を選べる
- 給水量を外から確認し、必要なら排水できる

加湿を嫌う種類では、無加水での使用や、加水した巣と加水しない巣を併設する方法も紹介しています。
保水できる製品でも、すべての種類に同じ量の水を入れるわけではありません。
現行のパイプセパレーターも、クリアパイプの巣部と軽石の保水部を分けています。
こちらは専用中板で巣内を上下に分けられる別製品です。
試験管セパレーターの3室構造や過去の実測値を、そのままパイプセパレーターの仕様としては扱いません。
小型二層巣|3室と軽石の保水層

小型二層巣は、3部屋の巣層と軽石の保水層を分け、巣層のメッシュから加湿する構造です。
給水口から保水層に水を入れ、透明なケースで水量を確認します。
- 小さな巣の中に湿度差を作る
- 生活する床面へ直接水を入れずに加湿する
- 初期コロニーを省スペースで管理する
現行の商品説明では、試験管セパレーターよりやや乾燥する巣として案内しています。
石膏巣のような湿潤環境を好む種類にはおすすめしていません。
「二層式」という名前だけで同じ加湿条件だと考えず、製品ごとの用途を確認してください。
箱型|給水位置とフタによる通気の調整

箱型3Dプリンター巣(Mdk-B)は、クリアケースの下部に軽石を入れ、そこへ水を供給します。
巣部とは別の貯水エリアが見えるため、残っている水量を確認しやすい構造です。
フタには湿潤種向けと乾燥種向けがあります。
乾燥種向けでは上部の通気を利用し、保水側と通気側の条件に差を作ります。
- 下部の保水エリアに給水する
- 背部の加湿側と上部の通気側を使い分ける
- フタの選択を、飼育する種類の条件に合わせる
「乾燥種向け」は、必ず無加水で使うという意味ではありません。
給水と通気の組み合わせで、より乾いた場所も利用できる構成です。
横置きリンクスv2|平面と上下の湿度勾配

横置きリンクスv2の二層式タイプでは、下層に軽石を入れる保水層を設け、加湿用のステンレスメッシュを端に寄せています。
湿度差を作るときは、この加湿部を通気のよい餌場から遠い側へ置くことがポイントです。
タワータイプでは、最下層の保水部と積み重なった巣室によって、上下方向の環境差を用意します。
上部の通気用メッシュにはキャップがあり、開閉によって通気を調整できます。
- 二層式:加湿部を端に寄せ、平面方向に差を作る
- タワー式:下部の保水と上部の通気を組み合わせる
- 連結構成:巣と餌場の位置関係も含めて考える

水を入れる場所だけ見ればいいの?

水分が入る場所と、空気が抜ける場所の両方を見てほしいんだ。

巣の向きや餌場とのつなぎ方にも意味があるんだねっ!
木製タワー|基本は無加水

木製タワーは、木製の巣層と通気を生かす、樹上営巣種向けの選択肢です。
基本的に無加水で使用します。
暖房や飼育設備の加温などで著しく過乾燥になる場合には、補助的な加湿ができます。
室内と巣内の湿度は同じとは限らないため、実際の環境と飼育する種類を見て判断してください。
巣内湿度が70%前後から木部のカビ発生リスクは高まりますが、絶対的な境界ではありません。
必要最小限の加湿にとどめ、木部の状態と通気を確認します。
飲み水は巣への加湿とは別に、餌場などの給水器で用意してください。
大型種レイアウト|巣材と餌場まで広げた選択肢

大型種レイアウトシリーズでは、巣内の湿度差に加え、巣と餌場の環境差を作ります。
巣は必要に応じて湿らせ、餌場は広く、十分に通気できる構成です。
大型石膏巣フレーム(F-DCbs)には、交換できるラウンドケースを2個取り付けます。
石膏、土、テラコッタなどの異なる巣材を使い、どの環境を選ぶか観察した後に構成を変えられます。
- 巣と餌場で、湿り方や開放性を分ける
- 2個のラウンドケースで、異なる巣材を用意できる
- 好みが分かった後も、交換して構成を調整できる
ここでの選択は、湿度だけで説明できるとは限りません。
素材や足掛かりなど、環境の違いを含めて観察するための構造です。
給水管理は使用する巣材に合わせ、各商品の説明で確認してください。
数値と観察の使い分け
公開された測定値は、設計した環境差を確かめるための手掛かりです。
その数値が、どの部屋でも、どの季節でも、どのコロニーでも再現されるわけではありません。
巣内の湿度は、外の温湿度、給水状態、通気、収容しているアリの数などで変化します。
アリがある場所に集まる理由も、湿度だけとは限りません。
確認したいのは、次のような点です。
- 湿った場所と、より乾いた場所の両方を残せているか
- アリや幼虫などが、どの部屋を使っているか
- 結露や水の入れすぎで、生活する床が濡れていないか
- 必要な通気が確保されているか
- 飲み水を、巣への加湿とは別に確保できているか
床が濡れた場合の対処や給水上限は、製品ごとの説明を確認してください。
給水量を増やすだけで解決しようとせず、通気や室内環境も含めて見直します。
種別ガイドの湿度レベルとの関係
あり巣 in undergroundの用品選びで使う「巣内湿度レベル」は、湿度計の数値を5段階に分けたものではありません。
巣への加水と、湿度勾配の作り方を示す目安です。

- レベル1:巣へ加水しない
- レベル2:乾燥を主体とし、一部に湿った領域を設ける
- レベル3:乾燥域と湿潤域をバランスよく作る
- レベル4:高湿度を基本とするが、巣内に湿度勾配があり、より乾燥した領域も利用する
- レベル5:全体を極めて高湿度に保て、乾燥領域を特に必要としない
わたしが考える各湿度レベルの代表種は、次のとおりです。

レベル3なら、湿度を真ん中の数字に合わせればいいの?

数字の中間という意味ではなく、乾燥域と湿潤域をバランスよく作る目安なんだよ。

アリが選べる環境の作り方を表しているんだねっ!
すべての種類に同じ湿度勾配を用意するのではなく、その種類に合う乾湿の範囲を考えます。
さらに体の大きさ、脱走対策、巣材への損傷性も合わせて、用品を選んでください。
観察・測定・改良を続ける設計
あり巣 in undergroundの湿度設計は、好む場所を観察することから、給水部と巣室の配置を考え、実物を作り、測定し、改良する取り組みへと続いています。
奥の保水部、限定した加湿メッシュ、上下に重なる巣室、開閉できる通気口、交換できる巣材。
形は違っても、アリ自身が選べる環境を作り、飼育者がその選択を観察しながら管理できるようにする点は共通しています。
自分の環境でアリがどこを使っているかを観察し、必要に応じて調整する。
そのための選択肢を、製品の構造として用意してきました。


