・この種類のアリはどうやって飼うのがベストなんだろう・・・?
・今のアリの飼育環境が合っているか不安です。
こんな疑問や困りごとを本記事では解決します。
この記事を書いた人
昔ながらの石膏巣だけでなく、3Dプリンターを使った巣など、これまで一万を超えるアリの飼育用品を作ってきました。
わたしは「あり巣 in underground」で生体管理も行うので、様々な環境に棲むアリを仕入れて、その生体の飼育環境に迷うこともしばしばあります。
そこで、本記事では飼育方法がわからないアリについて、わたしがどのように飼育環境を判別しているかをご紹介します。
この記事を読んでもらえれば、あなたの手元にいるアリにより良い飼育環境を与えられること間違いなしです!
【前提知識】アリの好む環境は、種類によってちがう
加湿飼育と乾燥飼育
アリの飼育情報はまだまだ少なく、数年前まで国内のアリ飼育は「飼育容器は石膏巣にして、加水した飼育一択」という時代が長く続いていました。
しかし、それですべての種類のアリを飼育するのは、とても乱暴な飼育方法だとわたしは考えています。
一般的に土中、朽木、林床などの湿った環境に棲むアリは加湿された環境を好みます。
対して、樹上性や海外の乾燥地帯に棲むアリは巣内の過ぎた湿度を嫌います。
「加湿」と「乾燥」の2種類の飼育方法については、別記事もありますのであわせてご覧ください。
石膏巣での飼育に向かない種類もいる
野生のアリの巣を観察すると、樹上営巣種をはじめとして、石膏巣で加湿された環境とは、異なった環境で生活する種類が多くいることがわかります。
下の写真は硬く乾いた枯れた竹に営巣していたシベリアカタアリです。
わたしは国内でも数少ない石膏巣以外のアリの巣も推す製作者として販売もしています。
樹上性のアリの飼育難易度を下げるために、加水用の石膏巣以外も「あり巣 in underground」で販売を始めました。
わたしが作るアリの巣の一例は、天然木をそのままアリの巣にした「丸太巣」です。
これについては、別記事もありますのでご覧ください。
これまでの国内のアリ飼育の情報は、石膏巣と相性の良い生体の情報が主に蓄積されています。
ですが、その情報だけで石膏巣に加水した巣で飼育すると、乾燥を好む種類のコロニーの状態は徐々に悪くなり、発展を妨げてしまうでしょう。
そして、最悪全滅します。
そうならないためにも飼育下のアリにはより良い飼育環境を与えてあげたいですね!
湿潤環境を好むアリの巣を乾燥させると一気に全滅しますが、乾燥を好むアリに加湿しすぎても徐々に衰退していく感じになるよ!
なので、すぐには相性の悪い環境に気づきにくいって側面があるんだね!!!!
しかし、これまで飼育種としてマイナーだった種類や海外生体だとネットにも中々に飼育情報がありません。
なので、どのように飼育していいのか困ってしまうことがあるかと思います。
わたしも日本に初めて入ってくるような海外生体を仕入れることがありますが、生体の飼育環境に迷うことがあります。
これからご紹介する方法は、実際にわたしが行っている判別方法です!
アリの飼育環境を考える時や生体の説明に記載する文章を考える時に使っていますよ。
【実践編】より良い飼育環境を判別する方法
試験管判別式
まずは、試験管を使った簡易的な飼育環境の判別方法をご紹介します。
その方法は「試験管判別式」。
試験管判別式は、同環境において多種を飼育して比較することで、蟻の種類ごとの乾湿の好みを見分けます。
環境を固定して、生体の種類を変えて比較実験する方法です。
使う用品はこの2つのみ。
試験管
わた
判別方法はとても簡単です。
試験管内で小コロニーを飼育して、水をさえぎる「わた」からの距離を見ます。
まずは、試験管の中に水を入れてわたで水を封入します。
説明のため、現在わたしの手元で試験管飼育している一部のアリを比較してみます。
わかりやすくするために近いサイズのオオアリを集めました。
まずは下の写真をご覧ください。
試験管内には、上から順に下記の通りの種類が入っています。
これを見ると自然での営巣場所によって、水をさえぎるわたから蟻までの距離が異なることがおわかりいただけますでしょうか?
試験管内では、微妙な湿度勾配があるようで、蟻は自分たちの居心地の良い場所を見極めているようです。
具体的には、自然での営巣場所が、「樹上>朽木>土中」の順で湿ったワタとの距離が出来ています。
試験管は同じ室内に置いていても、石膏巣に比べて結露しづらいことから、乾燥している環境です。
ですので、加湿環境を好む土中性のアリは湿度の高いわたに近づいていきます。
この判別方法は、「試験管よりも更に湿度が欲しい」って感じているアリを見分ける方法だと思ってるよ!
試験管判別法なんて今まで聞いたことないよ!
そんなのたまたまじゃないの?
どこのサイトや販売店でも「試験管判別法」なんて紹介していません。
わたしのオリジナルの判別法なので、こんな声が聞こえてきそうです。
なので、もう一枚写真をご覧頂きたいと思います。
次は同じように林床に生息する小型種の蟻を集めました。
試験管内には、上から順に下記の通りの種類が入っています。
名前 | 自然での営巣場所 | |
1 | ヒメムネボソアリ | 林床 |
2 | ヒメムネボソアリ | 林床 |
3 | キイロヒメアリ | 林床 |
4 | キイロヒメアリ | 林床 |
5 | アメイロアリ | 林床 |
6 | アメイロアリ | 林床 |
(撮影時に振動を与えてしまったので、キイロヒメアリは驚いてややバラけてしまいましたが、上から三本目の試験管の卵塊の位置くらいが定位置です。)
これを見るとアメイロアリは、試験管の奥のわたに隙間なくピッタリとくっついており、もう少し湿度が欲しいのかなと推測できます。
また、隣り合う同種では同じような位置取りをしていることがお分かり頂けるかと思います。
同じ林床に住むアリでも湿度の好みが異なるようです。
林床の枝やどんぐりなんかは、土中よりも環境の変化が大きいだろうから、多少は乾燥耐性ありそうだよね。
比べて見ると違いがわかって面白いよ!
試験管判別法は、試験管内での僅かな距離や位置の違いを見ます。
季節や天候、室内の加湿、除湿の有無によって、空気中の湿度は異なるので観察する場所での相対的な評価がいいでしょう。
よって試験管判別式は、同一の環境で飼育する複数の種類を比べて判断するのに適しています。
おすすめは「クロオオアリ」など良く飼育環境の知られた種類を基準とすることです。
基準をもって比較すれば、「クロオオアリよりは湿度を必要としないな」と言った判断がくだせます。
また、湿ったわたに近づく蟻ほど、湿度を好む種類と判断できるでしょう。
この判別方法でわかるのは、その種の乾湿の好みです。
環境選択式
次のアリに適した飼育環境の判別方法は「環境選択式」です。
環境選択式は、蟻が持つ「好みの環境に自分たちで引越しする習性」を利用した比較実験です。
今回使用する用品は下記になります。
これらを下の写真のように組立てます。
天然石入り平型石膏巣が二つありますが、片方のみ加水します。
天然木入り平型石膏巣は加水しません。
理由は、乾湿の環境の好みを見るためです。
加水しない乾燥させた石膏巣を「天然石入り」と「天然木入り」を用意したのは、「石」と「木」のどちらを好むかを判定するためです。
石膏巣を使っていますが、石膏はあくまで「石」と「木」を固定する基材であり、この判別では石膏の好き嫌いを見るものではありません。
給水塔は、乾燥を好む種であっても簡単に飲水にアクセスできるようにするためです。
環境選択式を行うときのポイント
比較して知りたい飼育条件以外をそろえるのがコツです。
乾湿の好みを知りたいのに「ケースのサイズ」や「石膏敷きの有無」など別の条件があると、その別要因によって蟻の行動が変わる可能性が大いにあります。
比較実験では知りたいこと以外の条件は、可能な限り統一しましょう。
続いて、アリをエサ場に落として強制引っ越しをさせます。
今回は、国内でほとんど飼育実績のない、ハーベラーオオアリの好む飼育環境を探っていきます。
(本記事執筆時には日本語で読める飼育記事は当ブログのみだと思います)
引っ越し方法については、詳細が別記事にありますので、ご覧ください。
次に数時間から1日程度で蟻が自分の好む環境を選び出すのを待ちます。
さて、その後ハーベラーオオアリはどこに営巣したかというと、、、
天然木入り平型石膏巣を選択しました。
ここからわかるのは、ハーベラーオオアリは、湿度の好みで言えば「乾燥」を。
石と木では「木」を好んで選んだことになります。
ハーベラーオオアリは「乾燥&木」の環境が好きだってわかったよっ!!!!
この種は台湾固有種として入手したので、わたしは野生の営巣環境を見たことがありません。
ですが、卸元より「ハーベラーオオアリは樹上性で飲水だけで飼育できる」と事前に得ていた情報と合致する結果となりました。
輸入生体については、乾燥した砂漠のような国では加湿環境を好むけれど、日本の多湿環境なら空中湿度で十分飼育できる。そんな種類もいるかもしれません。
なので、不安があれば実際に飼育環境を調べることも必要だと思っています。
実は前に乾燥した草原に住む海外の蟻を土中性だからって加湿して飼育しました。
その時、加温したせいもあって、蒸れて弱らせてしまったんです。
「土中性=多湿環境」って思い込みは良くないなって思い知らされた経験です。
以下は実際に使用している巣の中の様子です。
天然木入り平型石膏巣はとても気に入ってくれたようで、写真のようにイキイキとした姿を見せてくれています。
もしかしたら、極端に通気性を好む種がいたら餌場に常駐するかもね。
わたしが知っている種類だとトゲアリが石膏巣と餌場を頻繁に行き来していたから近いかな!?
まとめ
今回は、より良い環境で蟻を飼育するため、その好みを判別する方法をご紹介しました。
2つの簡単な比較実験でしたが、なんとなくやり方はわかってもらえたでしょうか?
環境選択式では、アクリル巣や試験管巣、木製巣、石膏巣など様々な飼育環境を比較可能ですので、色々と試してみてください。
この記事を書くにあたっては、石膏巣による加湿状態での飼育方法は一般的であり、ネット上にも沢山あるため、乾燥飼育に主眼を置いて書きました。
実際に野生のアリの巣を見て飼育環境を再現するのがベストではありますが、輸入生体などはじめとして購入したアリについてはそれが難しい場合がほとんどです。
そんな生体を入手することがあれば、ぜひ参考にしてくださいね。
本記事が飼育情報の少ないアリ、そしてあまりうまくいった情報がないアリの飼育にチャレンジする方の一助になれば嬉しく思います。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
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その他のアリの飼育情報を記事にまとめています。ご覧ください。